盤上の自由のために:シリコンバレーで将棋本を読む(2)

『シリコンバレーから将棋を観る』では、現代将棋のプロたちの世界とシリコンバレーとを重ね合わせた記述が多く見られる。これには、競争の中を生き抜いてきた人々に共通する雰囲気を将棋のトッププロたちが持っているという点もあるかもしれない。が、それ…

シリコンバレーで将棋本を読む(1)

将棋を指さない人でも楽しめる将棋本、ということで、まったく指さないのに『シリコンバレーから将棋を観る』を読んだ。「サバティカル」中に生まれたこの本は、梅田さんのこれまでの著書のようなひとつのテーマをめぐって論考をめぐらせるような本ではなく…

一般化J空間:一般解からのアプローチ

先のエントリで「拡張」という言葉に違和感を持った方もおられるようです。自分自身もうまい言葉がみつからず、なんとなく違和感を持っていたので、フィードバック感謝します。ここで自分の頭にあったのは、領土や圏域を拡大するとかいう物理的な拡張ではな…

日本を拡張する

渡辺千賀さんの「日本はもう立ち直れないと思う」という発言がずいぶん反響を呼んだわけだが、*1これは日本という現行システムの限界を指摘しているのであり、中の人までが駄目だとまではいっていないと思う。渡辺千賀さんの趣旨そのものではないかもしれな…

小説『日本語が亡びるとき』を読む

水村美苗の新作小説『日本語が亡びるとき』は、作者の二作目の小説『私小説 from left to right』を参照する形でのメタ私小説となっている。アメリカで生活しながらも英語に馴染めず、日本語にこだわり続ける主人公が、日本にもどって作家となり、その後どの…

『日本語が亡びるとき』を読む

梅田さんの釣りにかかって、水村美苗の新作エッセイ『日本語が亡びるとき』を日本から取り寄せて読んだ。すでに各所で指摘されているとおり、論考にはかなり飛躍や不整合があって、これが論文ならrejectだと思う。だが、エッセイとしては面白く、読み応えが…

『ウェブ時代5つの定理』:第4定理の証明をめぐって

証明されなければ定理とはいえない…。理系の人間として、最初はそんな無粋なことを思いながら『ウェブ時代 5つの定理』(isbn:4163700005)を読み始めた。だが第1章(第1定理)を読み進めていくうちに、「定理」の比喩するところがなんとなくわかってきた。…

御用学者と呼ばれて

自分の理解が正しければ(先生はもう「長老」なんですか?)、池田さんのエントリーでそう呼ばれているのは自分が尊敬する大先輩の先生のことのようなので、ちょっと複雑な気持ちである。スルーしようかと思っていたが、やはり何か言っておこうかと思う。 と…

情報系学会がなぜドメスティックになりがちか

先のエントリーには自分の予想を超える反応をいただいた。頭の中では「情報系」の若手を特に想定して書いていたのだが、文章ではそこがちょっとわかりにくかったことを反省している。日本語圏引きこもり問題は、学問の分野によってずいぶん状況が異なると思…

知の開国:大学の若手研究者ができる4つのこと

日本のIT業界は鎖国状態に近い。国内だけで回るシステムが産官共同で構築され、閉じた世界の中で生産性は一向に上がらず、日本発のソフトウェアやサービスが世界に広まるという事例が極端に少ない。残念ながら同じことが、大学を中心にした学問の世界でも起…

圏外からの眺め

衛星からの北朝鮮の夜景を見たことがあるだろうか。周りの国が光を放つ中、闇の中に人々が暮らしているかと思い、どきりとさせられる画像である。それと同じようなものがある。英語圏から見た日本だ。周りの国が光を発している中で、日本からの光はまったく…

大企業研究者のジレンマ

大企業研究者とは第一義的には大企業に勤める研究者だが、その性(さが)ゆえに大企業についての研究もしてしまう悩める研究者のことである。それはともかく、前回のエントリーで引用させていただいた中村孝一郎 (id:koichiro516)さんから反応をいただいた。…

大企業をゆく

更新をサボっている間に今日またひとつ歳をとってしまった。ちょっとここで、大企業に勤める研究者として自分の身を振り返ってみたい。『ウェブ時代をゆく』関連で大組織と小組織の対比が話題になったが、そもそも自分はなぜ大企業に勤めるのだろうか。『ウ…

ケータイけものみち

昨日のエントリについて、海部さんからトラックバックいただきました。ありがとうございます。 グーグル主導のオープン化の動きが、どこまで「業界の本質的な地殻変動」であるのか、それとも「グーグルvs.ベライゾン」の政治的かけひきの一つなのか、という…

ケータイ進化論 本当の「黒船」はこれから現れる

来年はついにiPhone日本上陸か、といわれており、Appleと組むキャリアはドコモか、ソフトバンクか、といわれている。iPhoneの参入は、パラダイス鎖国日本への黒船来襲ではないかとも言われる。だが、iPhoneもまた垂直統合型のクローズドな製品である。確かに…

「ウェブ時代をゆく」(2)ロールモデリング―「よいこと」を抽出する技術

「ウェブ時代をゆく」が日本で発売されてからサンノゼの書店になかなか入荷されなかったので、それまでの間本書に関するネット上の記事や感想を読んでいた。結局、著者本人のこれまでのブログも含め、事前情報を仕入れた上で本書を読んだわけであるが、それ…

国家プロジェクトをやめてみる(2)日本という「大組織」

前回、「ウェブ時代をゆく」で梅田さんが提案する「何か大切なものをやめてみる」を国家プロジェクトに適用し、企業側から国家プロジェクトの受託をやめてみることを提案してみた。国側については、 官の側にも少し申し上げたい。 研究的なものは、民間企業…

「ウェブ時代をゆく」(1) 儲からない仕事がしたい

梅田さんの「ウェブ時代をゆく」を読んで、シリコンバレーに来たころを思い出した。911テロの直後に渡米し、それからしばらくしてのことである。こちらにきて将来的に何がしたいのか妻に問われ、こう答えたのだった。 「儲からない仕事がしたい」 妻には…

国家プロジェクトをやめてみる

はじめに:筆者の勤める研究所の親会社は日本の大手ITベンダーのひとつですが、ここに書くのはあくまでも筆者個人としての意見です。ですが、会社の、さらには日本のIT全体の長期的な発展を願うものとしての一般論をここに発言するしだいです。 「やめてみる…

日本語論文をやめてみる

学生のころ読んだ中川いさみの4コマ漫画「クマのプー太郎」にこんな作品があった。 クマのプー太郎が暇そうに寝ている。 「君は暇そうでいいなあ、僕なんかてんてこ舞いだよ」と、その脇でテンテコ、テンテコ踊っている男。 プー太郎が一言、「そのテンテコ…

「やめてみるメソッド」

梅田さんの『ウェブ時代をゆく』の本自体はまだ未読だが、CNETの記事を見て、「何かをやめてみる」というメソッドはいいんじゃないかと思った。 この本の感想を見ると、「わくわくした」とか「元気が出た」とか書いてあります。一服の清涼剤としてこの本を使…

ウェブ時代をゆく

梅田さんの『ウェブ時代をゆく』が発売されて、話題になっている。が、実はまだ本を入手できていない。 ただ、本そのものだけでなく、その受容のされ方に興味があって、ブログ界での書評・感想を読んでいる。本を読む前に感想を書くのもなんだけど、今感じた…

再開の季節

久しぶりにブログを再開してみようと思う。 この夏から今までずっと、本業の研究のほうに集中していたのだった。夏の時期はインターンの学生がきたりして、職場は賑やかになる。学生さんからも刺激を受けながら、フル回転で研究のことを考える。9月に学生た…

GoogleのDRM征服計画

『ウェブ人間論 (新潮新書)』の感想の続きとして書こうと思っていたら、サボっているうちにも事態は進んでいる。 Policing Web Video With 'Fingerprints' - WSJ WSJによれば、GoogleがYouTubeの著作権管理にAudible Magicのフィンガープリント技術を採用す…

科学者の「俺のロマン」

元記事を読んだときのもやっとしたところが弾さんの記事で明快になった。 それでも、退屈な作業を喜々黙々と続ける人たちは、それを続けるのをやめないだろう。彼らはその先に何があるのかを知らない。しかしその先に至ったとき、どんな気持ちになるかは知っ…

情報大航海プロジェクトはどんなサービスを採択すべき?

情報大航海プロジェクトの委託先として、NTTドコモと日本航空インターナショナルの2社が採択された。 それに対する批判的記事: にしてもドコモも日航も本当に必要なサービス開発なら10億くらいポンと投資できるのに.なぜ財政資金を投ずる必要があるのだろ…

研究者になりたい皆さんへ

好きなことを意識的かつ戦略的にやるという梅田さんの記事をうけて、ではどうすればよいかという、研究者を目指す人向けの記事が目を引いた:http://d.hatena.ne.jp/Maybe-na/20070403/1175617089では私からも、研究者になりたい皆さんへ。 今の環境でサバイ…

日本のソフトウエア生産性と品質は世界最高水準?

日本のソフトウエア生産性と品質は世界最高水準〜なぜ日本のソフトは国際競争力がないのか。 - 木走日記 「日本人技術者の生産性の高さ、成果物品質の桁違いの高さは、何人ものアメリカの学者の科学的調査で報告されている」というスティーブ氏の指摘ですが…

梅田発言にまつわる雑感:入り口で絞るか、出口で絞るか

梅田さんの発言 (直感を信じろ、自分を信じろ、好きを貫け、人を褒めろ、人の粗探ししてる暇があったら自分で何かやれ。 - My Life Between Silicon Valley and Japan) を読んで、「まあそうだよねえ」と思っていたら、 ネットでのすごい反響(嵐のような…

Googleに対抗するとしたら

情報大航海プロジェクトはGoogle対抗国産エンジンを作るのが目的ではないとしても、あえて対抗したいとしたらどうするか?*1 「検索エンジンの破壊的な技術革新はもはやない」か? ちょっと古い記事になるが、各国の「Google対抗意識(検索エンジン・ナショナ…