情報大航海プロジェクトはどんなサービスを採択すべき?

情報大航海プロジェクトの委託先として、NTTドコモ日本航空インターナショナルの2社が採択された。
それに対する批判的記事:

にしてもドコモも日航も本当に必要なサービス開発なら10億くらいポンと投資できるのに.なぜ財政資金を投ずる必要があるのだろう.投資できるのに投資しないというのはリスクを負いたくないだけではないか.民間が負うことのできないリスクを政府が肩代わりして技術革新を加速するというのは国プロの王道だが,民間が負えるのに負わないリスクを政府に肩代わりさせるというのは似て非なる構図である.
情報大航海は大山鳴動して鼠一匹 - 雑種路線でいこう

「本当に必要なサービス」(誰にとって必要?)と「企業が自分で投資できるサービス」(投資から期待されるリターンは?)
が違うという点には注意が必要だと思う。
また、額面が小さければすなわち「民間が負えるリスク」とはならないであろう。
たかが10億されど10億。大企業内でもそれは結構大金だ*1
ここは投資の規模ではなく性質の問題であろう。誰がどうメリットを受けるのか?
企業が自前でやって取り分は全部企業になるか、政府の補助を受けて、成果は公共のものとするか、あるいはそのプロジェクトには投資をしないか、
どれを選んだら得になるか企業側も国側も双方で考えなければならない*2

まあ、今回の採択プロジェクトが妥当なものかはもっと詳しい情報が必要だが…。



一般論から言うと、大企業が独力で革新的なサービスを立ち上げるのには困難がある。
情報のサービス化は破壊的なインパクトを持ちうる。その結果世の中は便利になっても
企業側は「売り上げ」の低下を招くかもしれない。仮に高い収益性が見込まれても、売上高が
現行事業に比べてかなり小さいと、なかなか投資の決断は下されない。

通常は、こういった破壊的なものは新興企業がチャレンジャーとして立ち上げていくというのがセオリーである。

ただ、こういう新興プレーヤーに投資するならば、官主導的アプローチよりもシリコンバレー的アプローチが有効であろう。


今回、情報大航海プロジェクトが大企業に委託するのは別の理由があると思う。

情報大航海で言うところの「Google対抗」というのは、性能の勝ったもうひとつのGoogle
作ることではなく、Googleにできないこと(領域)をやりたい、という点であった。そのひとつとして、
インターネットでは見えないダークマター(企業内で眠っている情報など)に光を当てようとしている。
その観点からすれば、委託先としてドコモや日航のようにインフラを持っている
(がゆえにデータを持っている)大企業が選ばれるのは自然といえる。

日航はさておきドコモのやろうとしている位置情報を活用したリコメンデーション技術は,加入者の個人情報保護やコンテンツプロバイダに対する公平性確保などの観点で慎重に扱うべき点がいくつもある.役所にやるべきことがあるとすれば,いまどきWeb 2.0バブルで新興企業でさえ投資できる数億円の補助金を売上数兆円の巨大企業につけることではなく,登場の予想される新たなサービスに対する消費者保護と公正な競争条件の確保へ向けて必要な論点整理と法制度整備ではないか.
情報大航海は大山鳴動して鼠一匹 - 雑種路線でいこう

AでなくBをやるべき、という論だが、AとBが排他的とか競合的でないかぎり、Bが重要だということはAをやるべきでないという理由にはならない。
必要ならばAもBもやればよい。

特に今回の場合、A(サービス立ち上げへの投資)がB(法整備)のために役立つのではないか。

確かに法整備は必要だけれど、これから構築されようとしている新しい
サービス・アーキテクチャーを知らないままに変な規制を設けられてはたまらない。

その意味で、官民共同でサービスの立ち上げを体験していくのは悪くないと思う。未来を予測する
一番の方法は自分で未来を作ることだ、とまでは言わないが、行政にかかかわるものが
バンテージポイントに立つということは重要であろう。
もちろん、このためには単に委託して終わりというわけには行かない。丸投げではなく
ちゃんとフォローしてもらいたいと思う。

ドコモのやろうとしていることは技術的には国の援助なしでも自前でできそうにも思う。
でも、個人情報保護などのセンシティブな課題がそこにあるからこそ
営利企業に任せた場合のリスクを考えて国プロとして採択したという判断も成り立ちうる。


まあいずれにしても、ここに書いたことは外部のものの推測に過ぎない。
情報大航海プロジェクトは決定のプロセスについてもっと大公開すべきだ。
メディアを通じて情報発信している努力は伺えるが、ブログ界でもっと突っ込んだ
情報が流通すればもっとよいと思う。
まあ企業情報や個人情報を扱うプロジェクトとなるとセンシティブな問題もあるのは承知の上ですが。

ベールに包まれていた情報大航海プロジェクトについて,徐々に情報が出始めている.
情報大航海は大山鳴動して鼠一匹 - 雑種路線でいこう

といわれてますよ。本記事ではこの指摘が最も重要かも。


というわけで八尋さん、ブログ始めませんか?

*1:日本の大企業内でのリスクをとりたがらない体質(というか構造的問題)はもちろんあるのだけれど、それはまた別の話。

*2:一般論として、国プロの予算が企業としてやるべき投資戦略(研究開発戦略などをふくむ)をゆがめてしまうという弊害はある。これは別の機会に論じたいと思う。