GoogleのDRM征服計画

ウェブ人間論 (新潮新書)』の感想の続きとして書こうと思っていたら、サボっているうちにも事態は進んでいる。
Policing Web Video With 'Fingerprints' - WSJ

WSJによれば、GoogleYouTube著作権管理にAudible Magicのフィンガープリント技術を採用する方向で交渉しているようだ。
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/e26a10b5cb96279fbd6262069f4cf99e

著作権管理(DRM)技術は大きく二つに分類される:

  • 著作物をトレースする技術(fingerprintを検知する)
    • 秘密のデータをオリジナルコンテンツに忍ばせる方法(watermark)
    • 特徴量を抽出する方法 ←ここで話題になっているのはこれ
  • 著作物へのアクセスを禁じる技術(暗号化する)

コピーワンスで自分の首を絞めている日本」の著作権保有者(というか管理業者?)からすると
前者は後者の不完全な手法と考えるかもしれない。
著作物を認識してくれてアップロードを(入り口で)禁じてくれるならともかく、
アップロードされたものから著作物を検出してくれるだけで、
自分で削除申請をしなきゃいけないそうじゃないか。
しかも、改変に強いといっても限度があり、網に引っかからないものもあると聞くぞ。


もしそう考えるなら、「トレースできればアクセスを禁じる以外に可能になること」にもっと敏感になったほうがよい。

この技術は、YouTubeにアップロードされる段階で違法コンテンツをはねるのにも使えるし、コンテンツ・ホルダーがアップロードを許可して(YouTubeなどから)ロイヤリティを取るツールとしても使える。
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/e26a10b5cb96279fbd6262069f4cf99e

このfingerprinting技術は、使い方によってはYouTubeを生かすことも殺すこともできる。
もし入り口で著作権侵害物のアップロードを禁じ、大きな改変も検知できるように
広く網をかけるとしたら、ユーザのフェアユースまで侵害されてしまう。
不便になればユーザは別の方法を使うだけだ。
あなたの目の届かないところに行ってしまうだけなのだ。

アップロードされたものを著作権保有者側で判断させることにすれば、
削除申請以外の選択肢として、マーケティングツールや広告ツールを
提案することもできるわけだ。
「消すこともできますが、ちょっと待ってください。
ほら、あなたのコンテンツにこんな人たちがこんなにアクセスしてますよ。
そこで物は相談なんですが…」

Google/YouTubeがそのあたりの技術に長けていることはいうまでもない。
中の人たちは、著作権保有者がコピーされたコンテンツをYouTubeに残すほうが
合理的判断になるようにするため、いろいろな仕組みの開発に精を出していることだろう。

そこでの戦いをGoogleが征すれば、コピーを広めさせ、それをトレースすることで、
マスメディアを介さずにアーティストが作品を広めて収入を得ることも可能になっていくであろう
(いままで孫受け製作会社でこき使われていた人には福音かもしれない)。

その一方で、コピーをひとつも許さないと消しまくる著作権保有者がいてもかまわない。
でもそれは、おれのブログをブクマするな、mixiで足跡踏んだらコメント残せ、と同じような
個人の価値観の違いのひとつとなろう
著作権管理団体が一律に決めることではない)。
一部では削除厨とアップロード厨の終わりなき戦いが繰り広げられながらも、
全体としてあるバランス点に落ち着くのではないか。


そしてGoogle著作権管理事業者の現在の非効率なやり方を破壊し、
世界征服の野望にまた一歩近づくというわけだ。

メディアが対抗するには

では多くのコンテンツを抱えるマスメディア側が、
Googleにすべて持っていかれないようにするにはどうしたらよいか。

そのオリジナルコンテンツをネットで公開することだと思う。

もちろん、公開するといっても旧態依然としたサイトで登録ユーザだけにアクセスさせるのではなく、
YouTubeより簡単にアクセス可能でマッシュアップ可能にしなければならない。

そもそもオリジナルへのアクセスが不便だから、手間をかけてコピーを
アップロードしなければならないのだ。
オリジナルがいつでも参照可能であれば、そのポインタだけ共有すればよい。

オリジナルに何か付け加えたければニコニコ動画のように付加情報を別に共有し、
オリジナルを動的に引用してマッシュアップする。
ユーザは常にオリジナルにアクセスするので、ある意味著作権管理になっている。

テッド・ネルソンのトランスクルージョンの発想である。

仮にYouTubeに部分的なコピーをアップされても、
先ほどのfingerprinting技術+Googleの広告技術で検知されたコピーから
オリジナルに誘導することができる。


まあ池田さんの記事を読む限りでは、今の日本のメディアがこういうことをできるような
構造になっていないようなので、言うだけむなしいことなのかもしれないけれど。
いっそのこと、NHKは中途半端に民営化するより国営化して、すべてのコンテンツを
インターネットで参照可能にする法律を作ったほうがいいかもしれない。
公共に資すると思うんだけれど。