情報大航海の中の人にきいてみた。。。
日本出張で久しぶりに古巣の大学を訪問し、情報大航海プロジェクトの中のえらいひとにお会いした。
当初、官製グーグル(日の丸検索エンジン)つくってどうする?みたいな批判が多かったが、経済産業省の人の反論もあった。官僚側のえらいひとやITベンダーの中の人々と、大学のえらいひとでは考えも違うかもしれないが、実際のところを(酒の席で)うかがった。
たしかにプロジェクト構想の初期には、打倒グーグルみたいな発想があったそうだ。でも議論を進めてすぐに、同じ方向性で対抗してもしょうがない、という結論に達したそうだ(まあそりゃそうだ)。映像解析やセンサー技術など、日本に優位な技術がある分野に注力するということと、インターネットの情報だけに限らず、実世界の情報(センサー情報とか)を対象にしようという話になったとのこと。
プロジェクトの成果としては、従来のように「ITベンダーが集まってプロダクト(のようなもの)を作りました」というのではなく、なにか新しいサービスが生まれてくることを目標とした「サービス志向」だそうだ。ユーザ企業が商業的価値のある新事業を立ち上げられるようになるところまでがプロジェクトのスコープに入っているようだ。
この目標のため、プロジェクトは3つのレイヤにわかれている。(1) モデルサービスの実証、(2) 次世代検索・解析技術の開発、(3) 研究開発基盤の整備。
(1)のモデルサービスの実証では、ユーザ企業の主導でサービスを(「次世代検索・解析技術」を使って)展開していく。社会インフラになるような大きな事業(交通機関や医療など)から、ベンチャー企業によるとんがったものまで、幅広く可能性を見ているようだ。結局ここにどんな人が集まるかにプロジェクトの成否がかかっていると思う。
このモデルサービスの実証では、その「商業的成功」をゴールとしているそうだが、何をもって商業的成功とするかというのは詳しくわからなかった(あまり決まってないのかもしれないが)。この「成功」が、投資した予算に見合うだけの収益を上げるというのであったらちょっと大変だ(そもそも、もしそれがうまく行くなら、国じゃなくて投資家が投資できるわけだが)。新しいサービス事業が生まれればよい、といっても、単発のサービスを一つか二つ作って終わり、というのではなく、商業的に成功できるようなサービスがいろいろ生まれてくるような「社会的インフラ」が整備される、というのが国家プロジェクトとしてのゴールではなかろうか。「商業的な成功」というのは、その事業自体への投資効果というより、インフラの有効性の実証として評価すべきなのだろう。
(2)は要するに、従来のように産学協同で技術開発を行う部分であるが、あくまでもモデルサービス志向で、それをサポートするような技術を共同開発するというところが違うようだ。まあ従来のように複数のベンダが集まってひとつのものを作るのだ、というよりはよいのだろうと思う。カギは(1)と(2)がどううまく組み合わさるか…。そもそも新事業が生まれるほどのすごい技術があったらITベンダがそれを共同プロジェクトの場に出したがらない、ということもあるだろうから、うまい仕組みが必要そうだ。この辺をもっと詳しくきいてみたかった。
また、技術開発のところでは、国内大手ベンダに限らず、海外企業やベンチャー企業など、優れた技術を持っていれば幅広く参加をしてもらうそうだ。
(3)の研究開発基盤の整備は、大規模開発環境を国が整備し、その上でサービスの開発や実験が行えるようにしたいとのこと。グーグルラボのオープンなやつみたいなものだろか?ときいたら、まあ「そんなに超大規模なものが用意できるわけではない」とのことだが。でも、いままで大規模データで遊ぶにはGoogleの中の人になるしかなかった(わけでもないけど)が、そういう環境を簡単に利用できるよう整備する意味はあると思う(どれだけ「遊ばせて」くれるかは知らないが…)。
この3つのレイヤーがどううまく機能していくかはこれからの課題だろうが、とにかくオープンにいろんな(優秀な)人に参加してもらいたいそうだ。どうやって参加できるか、そもそも参加する魅力があるか、そのうちオフィシャルなところから詳細がわかってくることと思う。
あと、文部科学省の科研費で「情報大爆発プロジェクト」というのがある(実はここでちょっと講演するために大学を訪問した)。
この情報大爆発プロジェクトと情報大航海プロジェクトと何が違うのか?重複したことを別の省庁が二重に投資しているのか?それともスコープがぜんぜん違う?
聞いてみると、大爆発プロジェクトは大学での基礎研究、大航海は産業応用という位置づけだそうだ(言われてみればそのまんまだが。。。)。第五世代コンピュータのころと違って、経産省が基礎研究に投資することはもうできないそうだ。うまく連携できるようにしたいとのこと。大航海プロジェクトに大学が参画しているのはそういった連携をねらっているそうだ。
こうやってみてみると、情報大航海プロジェクトは、Googleに対抗するというよりはむしろ、シリコンバレーに対抗すると見たほうがよさそうだ。特定の技術やシステムの構築ではなく、イノベーションを創生するプラットフォームの構築ということだ。
ねらいとしては、Google対抗の日の丸検索エンジンなんかよりずっとよいことだと思う。
でもグーグル一社なんかに対抗するよりずっと手ごわいですよ。シリコンバレーは。