口コミサイトのスケーラビリティ

先日日本への出張の際、久しぶりにlivedoor 東京グルメを利用した。

アスキーの実験サイトから個人運営の時代を経て、現在はライブドアに買収されている。実験サイトの立ち上げに参加したものとして、今も続いていてくれているのがうれしい。管理者の熱意とそれを支えたコミュニティの力だろう。

管理者のブログをさかのぼってみていたら、興味深いエントリを発見。
注目のクチコミ:クチコミ・サイトは弱体化している? - livedoor Blog(ブログ)

この中で引用されているのが日経BPの「デジタルARENA」の次の記事だ。
http://arena.nikkeibp.co.jp/col/20061003/119059/

筆者の岡部敬史氏はブログ進化論の著者でもある。彼の主張点は次の2点である。

  1. 人が多くなってつまらなくなった
  2. 個人がブログで情報発信できるから口コミサイトの役割は終わったかも

私の観点からすると、この問題は「どうやって知を集約するか」というWisdom of Crowds (集合知)の課題に通じる。

これは、どうやって口コミサイトにスケーラビリティを持たせるか(あるいはインターネット規模のオープン性を持たせるか)という問題であり、現在のWeb2.0の枠組みが口コミサイトをうまく取り込めていない原因は何か、という問題でもある。

人大杉の問題

岡部氏は状況を雑誌にたとえて、必要以上に部数を増やすと大衆を意識しすぎて魅力がなくなると述べている。

つまり、大衆を意識するということは、実像がボヤけることでもあるのだ。

 やはり「livedoor グルメ」をはじめとする口コミサイトは、どこまでいってもゲリラメディアであるし、そこを忘れてはいけないと思う。変にテレビのようなメジャー志向を持つと、根幹からその存在意義が薄れるような気がしてならないのだ。

まあこれは普遍的な問題としてよく話題にされるものだ。『ウェブ人間論』でも平野氏が同様の問題を懸念していたと思う。

そして岡部氏はこう提案している。

これからの口コミサイトは、一定の会員数に達した時点などに、招待制へと切り替えてみてはどうか

編集者らしい考え方だと思う。雑誌の場合は編集者が固定的な「知の集約」を行って記事にする。どうやって人を絞り込むかは大きな課題だ。

でも、ウェブの場合は、その場のニーズでどのような編集も(技術的には)できるはずだ。データの収録(入り口)と表示(出口)は別のもので、そこに情報検索・集約機能が介在する。

情報の入り口では制限をしすぎない方が良い。入り口を窮屈にすると、個々人の素直な発言を知ることができなくなる。それこそ雑誌や新聞の投書欄みたいに、演出がかった「期待される発言」ばかりになってしまいかねない。

一方で情報の出口は工夫が必要だ。

数多くの意見の単純な平均がつまらないのは当然である。また、個々人の顔が見えなくなれば、コミュニティとしての盛り上がりも薄くなるだろう。

スケーラビリティ1:人のスケーラビリティ(オープン性) ― 数多くの意見を意見を取り込みつつ、有意義で面白い情報集約が(自動的に)可能か?

たとえば、

  • とんがったランキング
  • 熱いコミュニティ

をどうやって抽出するか?ページランクとは違った種類のランキング技術や、コミュニティ解析技術が必要になってくる。

個人発信メディアの競合の問題

岡部氏は書く。

「ブログなどの個人が評価する時代になり、役割を終えた」。誰もが自分の“口コミサイト”を作れるようになりつつあるからだ。

確かに、情報の入り口の問題として、ブログやSNSやあるのにわざわざ口コミサイトに書き込もうという動機付けが薄れるのはあると思う。

ただそんな状況でも口コミサイトにあえて参加したいという人はいる。これはlivedoorグルメの管理者が異議を唱えるとおりである。*1

根本的な違いは、書き込みがデータベースと関連付けられて整理される点だろう。

  • 読む側にとって、さまざまな人の意見がモノを軸に一覧できる。ブログではこのような読み方は難しい。
  • 書く側にとっても、モノを介して人とのつながりができる。これは、人と人が直接つながるSNSとはまた違った感覚である。友達かどうかではなく、同じモノに興味を持った人がつながっていく。他人との趣味の一致点や相違点も一覧できる(類似度も算出される)。*2

理想的には、自分のブログに書き込むと、それがレストランに関するものならグルメサイトへ、映画に関するものなら映画サイトへとその情報が組み込まれるようになるとうれしい。別にブログと競合する必要はない。

ブログが「自分の分身」であるならば、さらにその分身がモノの分野(レストラン、映画、音楽、…)ごとに自然と出来上がる感覚だ。

あらゆる情報を個人を軸に整理したり、モノを軸に整理したりする。これは今の「検索+ブログ/SNSソーシャルブックマーク」の組み合わせではできない。

スケーラビリティ2:モノのスケーラビリティ(オープン性) ― 口コミの集約をあらゆるモノに対して自動的にできるか?

これを実現するには、書き込みが「誰が何についてどう評価しているのか」を自動的に認識できなければならない。

マイクロフォーマットもいろいろ提案されているが、あらゆるものを決まりごとで縛るのは難しく、大枠を決めるにとどまるであろう。(関係)データベースのような構造化データを期待するわけには行かない。

自然言語解析やテキスト・マイニングの技術も日進月歩で進んでいる。特に、Opinion Extraction の研究は近年盛んで、TRECのBlog trackもブログの中から口コミ情報を検出する機能のベンチマークの作成に取り掛かっている。

ただこれらの自動認識技術も、「完璧」からは程遠い品質である。これが使い物になるかならないか、そこには使い方の技術が必要だ。

不完全な(ゆるい)構造化データをいかにデータベース的に扱うか。個人的には今ここの技術に注目していきたいと思っている。

*1:CinemaScapeでは長い間、新規ユーザの登録を停止していた。その間にブログやSNSもブレークし、今更口コミサイトではないのかも…とも思った。しかし、「何年も登録を待っている」というメールをいくつも頂き、それに励まされて参加者招待制を始めることとなった

*2:なお、CinemaScapeの場合は、ネタバレ映画評の管理機能があることも理由のようです。mixiではネタバレの映画評は書きにくい(それを隠す機能がないから)。ドメインに特化したサービスも必要ということですね。